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資産運用とリスクマネジメント
甲斐良隆 著
A5判 416頁
\5,040
【新刊】 |
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内容の概説
ストックの時代といわれてから久しいが、資産運用が我が国経済に占める影響、重要性は一段と大きくなってきた。世界一の寿命を背景にして、退職後の生活時間が延びるなかで、若年時における貯蓄と消費のバランス、貯蓄対象の善し悪しが人生後半の生活水準を大きく左右することになった。また、ペイオフの実施、確定拠出型年金制度の導入等、個人の自己責任原則が明確に打ち出され、個人に対する資産運用教育、啓蒙活動も焦眉の事項となってきた。
一方、企業サイドにおいても、自己資本に匹敵するほどの膨大な企業年金の積み立て不足を前にして、本業一辺倒だけでなく年金運用に対する認識が急速に高まっている。資産運用を担当する部署に証券投資の専門家を配置したり、コンサルティング会社と契約するケースもでてきた。
また、将来の収入不安が消費者心理を冷やし景気の立ち直りを一層遅らせている事実からも分かるように、適切な資産運用は個人、企業のレベルにとどまらず、社会の安定にも不可欠である。折りからのデフレ経済のもと、行き場を失った個人金融資産は1200兆円を超え、生命保険を始めとする金融機関は深刻な運用難に直面している。リスクマネーが社会全体に循環しないと経済の活性化につながらない。
ところで、運用スタイルを決定づけるのは想定運用期間、目標リターン、将来の不確実性、つまり、リスクに対する選好(許容)度の3要素であると言われている。とりわけ、リスクへの対応が重要である。というのは、各種の実証研究でも明らかになっていることだが、収益管理とはリスク管理に他ならず、リスクに応じてしか収益を得ることが出来ないからである。大規模、長期間の運用になればなるほど、この傾向は顕著である。リスクの時間効果、分散効果を上手く利用することにより、将来の不確実性を減少できる。
資産運用を適切に行うには、先進的なポートフォリオ理論だけでは不十分であり、資本市場の動向、運用目的に対する緻密な分析、それと多くの経験則が必要である。運用対象は何千、何万とある上、目標やリスクをきちんと定義することが意外に難しいからである。リスクは絶対的なものでなく、運用の受益者によって変わりうるものである。同じ不確実性でも、ある人にとってはリスクであるが、別の人にとってはリスクと感じないということもありうる。リスクは運用目的、評価目的に依存しているので、その局面にマッチした
取り扱いが望まれる。資産サイドしか見ないアセットマネージメントから、ALM(資産負債管理)への転換が必要になってきた理由の1つでもある。いずれにせよ、リスクは本来多様な定義が可能であり、その全貌を知ることが資産運用の最初のステップである。
計測の次はリスクのコントロールである。リスクは変幻自在であり、他のリスクに変えることも売買も可能である。保険を掛けたり、先物でヘッジするだけでなく、逆に、賭けをしたりレバレッジを効かせることもできる。リスクとリターンはトレードオフの関係にあり、運用目的や損失限度額に応じて適正なリスク水準が自ずから決定される。リスクとリターンを統合するアイディアとして有力なものに期待効用仮説がある。期待効用を最大にする資産運用が最も良い運用という立場である。実際、効用関数の同定という障壁はあるものの、ごく簡単な仮定を置くことで実用解を得ることが出来る。
ところで、運用業務ほど人間の心理が投影しているものはない。システム運用が隆盛を極め、コンピュータがいくら発達しても、最後の判断を行っているのは人である。個々の人の微妙な心理の揺れが市場の価格形成に影響を与えている。特に感じるリスクが大きくなればなるほど、この傾向は強まり、リスクマネージメント上無視できない要素である。資産運用が人間の期待や不安、恐れが最も集中する「市場」で行われる限り、従来の経済学、数理工学のアプローチに加えて、心理学からの検証も不可欠である。
以上が本書の概要であるが、本書全体を通して資産運用業務のキーコンセプトにリスクを置くことにする。この視点で、従来培われてきた各種の理論体系や実務上の諸問題を解説しながら、今後の発展方向に対し道筋をつける内容となっている。
類書との比較
資産運用を取り上げた書物は多いが、本書はそれらに比較し次の2つの特徴を持っている。
? 類書は数学的厳密さを追求したものか、全く逆に、実例を羅列した散漫なものの何れかになっていると思われる。本書は理論体系を中心に据えながら、それが如何に運用現場に適用されているか、あるいは、逆に利用されていないものであればその障壁は何かという観点にも触れることにしたい。とかくファイナンスは実務家と学究派の間に大きな溝があるといわれている分野であるが、双方にとって本書が架け橋になることを目指す。
? 資産運用の本質はリスクの最適制御であるという立場を一貫させる。リスクを標準偏差とした議論は簡明で取り扱いが容易だが、実務家の感覚に合わないという問題を抱える。本来、リスクは運用目的との相対的な関係で決まるものであり、本書はそれらの具体的例示とその解法を示す。
目 次
1. 資産運用の概況
(1)我が国における位置付け
(2)プロセス(Plan.Do.See)
(3)最近の傾向
2. リターンの測定と評価
3. リスクマネージメントとは
(1) 3つの構成要素
(2) 現行方法と問題点
4. リスクの計量化
(1) 4つの計量化手法
(2) リターンとリスクの関係
5. 最適な資産運用
(1) 各種の投資基準
(2) 期待効用の最大化
(3) 不確実な状況における資産配分問題
(4) 保険とヘッジ
6. 最適消費水準の決定
7. 投資家心理の影響
8. リスクを考慮したパフォーマンス評価
9. 発展に向けて
各章毎の内容
1. 資産運用の概況
(1)我が国における位置付け
(2)プロセス(Plan.Do.See)
(3) 最近の傾向
最初に、資産運用業務の全体像を明らかにするという意味で、個人・企業・社会の各層における意義、位置づけを述べる。次に、運用のプロセスについての考え方と共に大手の機関投資家ではどのような組織、体制で取り組んでいるかを示す。そして、定量的運用手法の定着、分業体制への移行、パフォーマンス評価の変化等最近のトピックスを紹介する
2. リターンの測定と評価
リターンの計測は簡単であると思われているが、実体は違う。測定の目的に応じていろいろな方法があり、算出される数値も異なってくる。算術、幾何平均の相違、時間加重収益率の採用等の問題に触れている。
3. リスクマネージメントとは
(1)3つの構成要素
(2) 現行方法と問題点
リスクマネージメントの3要素とは、リスクの定義、測定から始まって、最適レベルの決定、さらに、その実行を指す。それらを運用の現場で如何に実現するかを現状の問題点を明らかにしながら解説。
4. リスクの計量化
(1) 4つの計量化手法
(2) リターンとリスクの関係
リスクについて4種類の定義を紹介する。どの定義も重要であり、目的に応じて適切に使い分けなければならない。収益の標準偏差、ショートフォール、BPV、トラッキングエラーがその代表的なものであるが、単に数学的な意味にとどまらず、運用の現場での適用方法に着いても解説。
リターンの生成はリスクによってしか不可能であるという投資理論を紹介する。CAPM,APTの導出等に加えて、多数の実例も引用。
5. 最適な資産運用
(1)各種の投資基準
(2)期待効用の最大化
(3)不確実な状況における資産配分問題
(4)保険とヘッジ
資産運用のうち、最もパフォーマンスを左右する配分問題を取り上げる。期待効用仮説によるモデル化を試み、実際ある種の効用関数、確率分布において具体解を示す。さらに、現実問題としては保険やヘッジが必要となる局面がでてくるが、その場合の効用の変化、コストを見積もる。
6. 最適消費水準の決定
高齢化社会では、退職後の生活時間が長い。若年、老年期等でリスク許容度だけでなく市場シナリオも大きく変化する。多期間の資産運用を考えると、消費水準も変数の1つになる。全体期間にわたる効用を最大にするため、各期における消費の水準を求める。
7. 投資家心理の影響
相場は理論通りにならないという声を良く聞く。確かに価格はフェアバリューというアプローチだけでは求まらない。それはゲーム理論的要素が強く他人の思惑を知ることが重要であるからだ。また、投資家は経済的に見て合理的な行動をとるとは限らないし、実際、多くの現象で確認できる。投資家が陥り易い心理の罠に触れリスク管理上の問題と位置づける。
8. リスクを考慮したパフォーマンス評価
パフォーマンスはリターンの絶対値のみで善し悪しを判断できない。基本的にリスクとリターンは比例関係にあり、リスク水準を考慮する必要がある。リスクプレミアムという考え方及びその具体例を紹介する。
9. 発展に向けて |
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