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経済数学
慶応義塾大学 戸瀬信之・伊藤幹夫著

A5判 456頁
¥3,780


本書の特色

計量経済学に強い理論経済学者と経済学部での数学教育の経験が豊富な数学者の共同作業による経済数学の解説書である。1年生において、微分積分と線形代数の初歩を学んだ学生がさらに深く数学を学び、そしてその経済学と統計学への応用をいろいろな形で知ることができるように構成されている。




本書の章立て

序章 なぜ経済数学か

第1章 線形代数の初歩

第2章 線形部分空間、線形独立性、基底

第3章 直交性、正射影、重回帰分析

第4章 固有値問題

第5章 2次形式

第6章 線形不等式と線形方程式

第7章 非負行列の理論

第8章 線形代数の経済学への応用

第9章 1変数関数の連続性と微分

第10章 解析学の基礎

第11章 常微分方程式、力学系

第12章 多変数関数の微分

第13章 極値問題とLagrange の未定乗数法

第14章 より進んだ最適値問題

第15章 最適値問題の経済学への応用

付録1 古典論理、集合、写像

付録2 さらに勉強したい諸君へ




各章の内容

序章 「なぜ経済数学か」では、経済学で扱う数学には、普通の線形代数や解析のテキストブックで、必ずしも深く扱われないものもあることを、簡単な問題を提示して、経済数学というものの特性を示す。さらに、経済学に対して、特殊な形で応用される数学が、経済学が明らかにしようとする内容をより精妙な形で示す可能性を、読者に想像させる。

第1章 「線形代数の初歩」では大学1年生で通常学ぶ、ベクトル、行列、行列の基本変形、連立1次方程式、行列式に関することをコンパクトにしかも別の視点からまとめる。その中では、分散、共分散といった統計量をベクトルと行列で表現して、コーシー・シュバルツの不等式が統計学で意味するものを明らかにしている。

第2章 「線形部分空間、線形独立性、基底」は理論的な線形代数の基礎を解説する。線形部分空間、線形独立性、基底など、全ての経済数学が構築される基礎となる諸概念を実例を豊富に解説。

第3章 「直交性、正射影、重回帰分析」では、ベクトルの内積がもたらす数学的な内容をまとめている。具体的には、正規直交系という特殊な基底とその構成法であるグラム・シュミットの直交化法をまず学び、そのあと線形部分空間への直交射影に関してコンパクトにまとられている。経済学・統計学への応用として、重回帰分析、最小自乗法を解説している。重回帰分析は、統計量(目的変数)を他の統計量(説明変数)の1次式で表すモデルを構成するときに用いる計量経済学で重要な手法である。

第4章 「固有値問題」では、固有値問題を経済学部の学部生に必要な範囲で取り扱う。固有値問題は、他の章の基礎となるばかりでなく、様々な経済学への応用がある点で重要である。

第5章 「2次形式」では、第4章の固有値問題を行列が対称である場合に詳しく扱い、2次式の数学理論である2次形式に関して学ぶ。応用として、多変量解析の主成分分析の数学的な側面を学ぶ。主成分分析は、例えば、各都市の住み易さの指標を様々な統計データをもとに構成するのに用いたりする多変量解析の手法である。2次形式の理論は、後に多変数の関数の極値に関して学ぶときなどにも応用がある。

第6章 「線形不等式と線形方程式」では、第2章と第3章で学んだ内容のなかで、産業連関分析、線形計画法、ゲーム理論などに関連する内容をより突っ込んで展開する。そこでは、線形方程式の非負の解が、線形不等式の解と密接な関係を持つことを明らかにする。効率的な資源配分の問題として、経済学に応用されて、価格機構の重要性を問題にするとき、ここでの議論が常に背景となる。実際、ここでの議論は、後の第14章で決定的な形で応用される。

第7章 「非負行列の理論」は、すべての要素が負となることはない、正方行列の性質を、そうした非負行列を基礎とする線形方程式の解の存在という面と、特殊な固有値の性質の解明という面から、明らかにする。ここでの議論は、主として産業連関分析の基礎理論という側面を持つ。また、生産を中心に据えた、リカードやマルクスなどの古典的な経済学とも密接な関係があるという点でも興味深い問題を、実は扱っている。

第8章 「線形代数の経済学への応用」は、第6章と第7章で紹介した、経済学を特に指向する線形代数の典型的な応用を、経済理論自体の丁寧な説明とともに展開している。ここで、前の二つの章の、抽象的な理論が、生き生きと経済学に応用されていることに読者は驚くだろう。

第9章 「1変数関数の連続性と微分」では1年生で学ぶ微分で本書で必要な定義と定理をまとめている。連続関数の最大値の定理、中間値の定理、微分可能な関数の平均値の定理とテーラー展開に関して復習を行う。

第10章 「解析学の基礎」では、このあと経済数学あるいは数理経済学を学ぶときに必要な、実数の完備性、実数列の収束、写像の連続性などに関してまとめてある。

第11章 「常微分方程式、力学系」では、定数係数の常微分方程式と力学系の解法と理論を学ぶ。力学系は、経済量が時間変化に応じて変化するのを記述する重要な考え方である。ここでは、マクロ経済動学に対する応用を示す。

第12章「多変数関数の微分」では、多変数の関数の偏微分、全微分に関して解説している。       

第13章 「極値問題とLagrange の未定乗数法」では、多変数関数が極値をとるときの必要条件と十分条件に関して学ぶ。そのとき第5章の2次形式の理論が重要な役割を果たすことがわかるようなっている。変数がある等式を満たしながら動くという等式制約のもとで多変数関数の極値問題も扱う。

そこでは、ラグランジュの未定乗数法という理論に関して、いくつかの典型的な場合をあつかった後、一般の場合を議論する。この理論は、価格が一定の場合に、経済量を最大化する場合などに出て来る、ミクロ経済学をきちんと学ぶ上で必須な手法を与える。

第14章 「より進んだ最適値問題」は、前の章で扱ったラグランジュの未定乗数法を拡張したクーン=タッカーの理論を扱う。この理論は、ラグランジュ乗数法における制約条件を不等式にしたという、

最適値問題の一般化にとどまらない重要性を、経済学において持つ。実際、ここで解説されるラグランジュ乗数は、効率的な資源配分の科学としての経済学にとって、決定的に重要な意味を持つ。

第15章 「最適値問題の経済学への応用」では、前の二つの章で扱った制約条件付きの最適値問題が、経済学にとってどのような意味を持つかを、近代経済学の視点から、解説する。さらに、最適値問題が経済理論に、具体的にどのように応用されているかの例ををいくつか示す。読者は、それらの例を理解しようとすることを通じて、経済学への理解を深めることができる。

付録1 「古典論理、集合、写像」では、本書を読むのに必要な論理的なことがらや集合、写像といった基礎的であるが、あまり焦点をあてて教えてこなかったことについてコンパクトな解説を行う。

付録2 「さらに勉強したい諸君へ」では、本書の各章に関してさらに詳しく学びたい人に、いろいろな角度から参考書を提示す。